全国で、学校でのいじめを苦に中学生が自ら命を絶つ痛ましい事件が起こるなど、現代の子どもたちをめぐる環境は必ずしも良いとはいえません。北海道の未来のために、私たちの大切な子どもたちを守り育んでいくには、どのような取り組みと心構えが必要なのでしょうか。「尾木ママ」の愛称で知られる、教育評論家の尾木直樹さんにお話を伺いました。
何よりもまず「いじめられる側にも問題がある」という考えは間違いです。
いじめる側が100%悪いのです。
いじめられている本人は、苦しさのあまり、その判断が難しくなっているかもしれません。
しかし、報道される数々の事件を見れば、いじめは虐待行為であり、
犯罪だということがはっきりとしています。
まず、その価値観をしっかりと持つことが大切です。
その上で子どもをいじめから守るには、子どもが発するサインを見逃さないことです。
大人ならば、ある程度、心の苦しみを隠せるかもしれませんが、
子どもがいじめに悩んでいるときには、
行動や表情、食欲不振などに必ずそのサインが現われます。
何気ない言動が普段と違うなと思ったら、それがサインです。
でも家庭では、家族の食事をする時間がバラバラだったり、
教師は授業の準備や学級運営に追われることで、
親も教師も普段の子どもの姿を知らないために、
こうした異変をしばしば見逃してしまいます。
サインをしっかりキャッチするためには、
大切な子どもたちを置き去りにせずに、
子どもとの接点を増やすこと以外に方法はありません。
世の中には「いじめを乗り越えた」などと体験を語る人もいますが、
本来はいじめは戦って克服するようなものではありません。
ピンチに飲み込まれてしまう前に、スイッチをオフにして逃げましょう。
正面からまともに受け止めなければ、
大事な芯がポッキリ折れずに済みます。
何より大事なのは自己肯定感を育てること。
それを奪われることのないように“負けて勝ちとれ”の精神が大切です。
わが子がいじめに直面した親は、愛情からとはいえ
「そんな弱いことでどうする」と子どもを責めたり、
逆に学校に対して攻撃的になってしまったりしがちです。
また、子どもは、いじめの事実を親に話すと
「余計に困ったことになるのではないか」と心配もしています。
ですから、親は子どもの対等のパートナーとして、
子どもと一緒に「いじめに立ち向かう作戦を練る」という気持ちで対処してください。
そして、いじめと戦うことになる前に、
大人は「いじめをしない子を育てる」覚悟を持ち、
それをわれわれの社会の合意としていきましょう。
また、先ほど「ピンチの時はスイッチをオフに」と言いましたが、
すべてにスイッチオフでは伸びていけません。
子ども自身が「失敗してもいいからやってみよう」と思えることなら、
スイッチをオンにする。ピンチはチャンスとよくいわれますが、
想像もできなかったような変身や飛躍も期待できます。
過去は変えられないけれど、未来は変えられます。
過去は未来を変えるためにあるものなのです。
児童精神科医・北海道大学大学院
保健科学研究院 生活機能学分野 教授
傳田 健三(でんだ・けん ぞう)さん
1957年静岡県生まれ。81年北海道大学医学部卒業。同大附属病院、市立札幌病院静療院児童精神科などの勤務を経て、99年同大大学院医学研究科精神医学分野准教授に就任。2008年から現職。日本児童青年精神医学会理事。
子どものうつ病は、基本的に大人と同じ症状で、抑うつ気分、睡眠・食欲障害、興味関心の減退などです。ただ、子どもは抑うつ気分をうまく伝えられないので、イライラ感として出やすく、さらに頭痛や腹痛、不登校や引きこもりを伴いがちです。親は、睡眠、食欲、好きなことを楽しめているかに、教師は、成績が急激に落ちたり、保健室へ行く回数が増えていないかに、気を付けてください。
大切なのは、子どもの話を聞くことです。朝は調子が悪くても夕方から元気になるのがうつの特徴ですから、1日の様子をよく見て、気分の良さそうな時に話し掛けるのがポイント。イライラ感から会話ができない状態なら、手紙も有効です。案外、今の子どもはメールやインターネット上での自己表現が上手ですから、文章を書くことへの抵抗が少ないのです。そして、スクールカウンセラーや精神科など、相談できる窓口がいくつもあることを伝えておきましょう。
親は不登校やいら立つ子どもに戸惑いますが、子どもの立場で「なぜ、こんな言動をするのか」と考えてみてください。それが、その子への理解につながります。