森 久美子さん
作家・エッセイスト・農林水産省 食料・農業・農村政策審議会委員私は食についての講演を度々行っていますが、そこで「みんなで食卓を囲むときはテレビを消して、携帯をテーブルに置かないでごはんを食べましょう」と言ったら、「シーンとするのが嫌」という声が圧倒的に多いんです。「何もすることがない」「会話がない」という声も多い。でも、そこが大事なんですよ。会話がなかったら、会話をする努力が必要なのです。
最近、子ども同士がうまくコミュニケーションできないという問題があります。親が食卓で子どもとの会話を避けていたら、それが悪い見本になってしまいます。子どもたちは「テレビや新聞、携帯を見ないで、私を見て」と思っているんですよ。これは、いまの若い親世代の問題である以前に、高度成長期からのテレビ社会や、核家族化などにより社会が変わってきたことの弊害です。誰が悪いということではなく、大人たちはもっと子どもの気持ちを気遣ってあげなきゃいけないと思うのです。
子どもたちが小中学生のころのことです。レギュラーのラジオ番組や新聞連載などで仕事が非常に忙しいときに、身内が倒れて入院したことが重なり、家で食事を作れない時期がありました。その時、子どもたちにお金を渡してコンビニのお弁当などを食べさせる日が続きました。3日くらいたつと、子どもたちがお弁当を食べ散らかして残すようになったのです。そのうち、私が家に帰ってもこちらを見ないでゲームばかり。成績が急に下がったり、精神的にも不安定になったりしました。「もしかして食べ物が影響するってこういうこと?」と痛感しましたね。
そこで次の日、頑張ってごはんを作ろうと家路を急いでいたら、ご近所からサンマが焼ける匂いがしてきたんです。そのときガーンときましたね。「ああ、買ってくるお弁当は、調理する匂いがしないんだ」と。私は、子どもたちからこれを失わせていたんだと。
家に帰って、ごはんを炊いて、ジャガイモを煮ていたら、子どもが帰ってきて、玄関を開けた途端に「今日、肉じゃが?」と言うんですね。普段は言葉で表現してくれなくても、料理の匂い、調理の温もりを、子どもたちはみんな感じているんですよ。
これから「味覚の故郷づくり」ということを提唱していきたいと考えています。家庭における、いわゆるおふくろの味を子どもたちに覚えてもらう。その材料が地域のものであれば、それが故郷の味になります。家族だんらんの記憶、味の記憶、故郷を子どもの記憶に残すということにつながるのです。人は故郷にいつか戻りたいと考えますよね。戻りたいと思う場所、味を思い出せる子どもを、みんなで育てていきたいと思います。
未来というと、先進的なものや、いままでにないものに向かおうとしがちですが、いまその弊害が現れていると思います。これまでは西洋の料理に憧れて、世界に通用する食生活を追い掛けてきました。その結果、失ったものが多いのではないでしょうか。次世代が生きるための未来に味覚の故郷を伝えることが私たちの役割だと考えています。
地域食堂きずな代表立浪 ゆかりさん
「地域食堂きずな」は、地元の食材にこだわり、食を通して地域の交流を図る場として、2007年に8人の有志により立ち上げたコミュニティーレストラン。ここでは「ワンデイシェフ」というシステムを導入し、地域の皆さんが日替わりでシェフをしています。料理講師、飲食店の方、主婦、学生など、さまざまな人が関わっています。
ここは、いわば「地域のお茶の間」ですね。アットホームで、気どってなくて、いつ来てもホッとできる。一人で来られた方も、お客さまやスタッフと仲良くなったり、人の輪はどんどん広がっています。私たちが目指しているのは、店の名の通り「きずな」づくり。ここに来る人それぞれが成長する場所になればと思っています。
(上)窓からの緑が映える店内。
晴天時はテラス席も開放している
(右上)「ワンデイシェフ」の皆さん
(右下)地域の人々が集い助け合うという店の理念が掲げられている
石狩市花川南4条4丁目66
TEL 0133-77-6393
営業時間 11:00~16:00
定休日 日曜・祝日
http://kizuna4466.blog120.fc2.com
ただいま「ワンデイシェフ」募集中!
詳しくはお問い合わせください。
※席数に限りがありますので、
来店前のご予約をおすすめします。