商品開発を通じて、農業を育む。

「甜菜」から北海道農業に新しい風を

ビートチップス秘話 倉本 聰さん

三十数年前富良野に移住した頃、僕は様々なことに挑戦した。そのひとつに、ビート(甜菜)への興味があった。サトウダイコンの別名がある、あれだけ大地の甘さを包含した作物を、砂糖の原料という既成概念にしばられどうして直接食することをしないのか。ある日近くの農家さんに分けてもらった二ヶのビートを丁寧に洗い、薄くスライスして油で揚げてみたら、何の調味料も加えていないのに天然の甘味が口にひろがり、こんな旨いものを放っとく手はない!と心がわくわく高揚した。それからビートのとりことなって、妻と二人で様々に実験して、天日干しの過程を加えてみたり油の温度を調節したり、試行錯誤を何度もくり返し、これなら行ける、という所まで進んだ。実はこの逸品、当時書いていた「北の国から」というテレビドラマの中で、黒板五郎にこっそり作らせ、純と蛍のおやつに供するというエピソードとして書こうかと思っていたのだが、誰かに真似されるといやだから止めた。ほんとにうまいから!まず喰ってみれ!?

倉本 聰さん
脚本家。1935年、東京都生まれ。1959年ニッポン放送入社。1962年に退社後、脚本家に転身。1977年、富良野に移住。1984年から役者やシナリオライターを養成する私塾「富良野塾」(現・富良野GROUP)を主宰。2005年、自然返還、環境教育に取り組むNPO法人C・C・C富良野自然塾を開設。代表作に『北の国から』『優しい時間』など多数。2014年1~3月富良野GROUP舞台『マロース』上演。

対談 坂下 美樹さん 加藤 勇城さん

坂下 美樹さん
料理研究家、栄養士、調理師、製菓衛生士、フードコーディネーター。実母で料理研究家 坂田蓉子(さかた料理研究室主宰)に師事。著書に「北の恵みでパン&スープ 59のレシピ」(北海道新聞社)ほか。2005年からホームページ「なごみの食卓」を運営し、08年から札幌市内でカフェ「うららか」を経営している。
cafe「うららか」
TEL (011)640-2367 定休日 第1、3日曜・毎週水曜、祝日

今まで無かった、甜菜でお菓子を開発

坂下:甜菜は一般にはなじみが薄いと思われますが、どのような作物ですか?

加藤:甜菜はビートとも呼ばれ、砂糖の原料となる作物です。明治以来北海道農業の基幹作物で、国産砂糖の約7割を占めます。国内では北海道だけで生産され、一般には流通されていません。

坂下:料理で使うテーブルビートは知っていましたが、甜菜は見たことがありませんでした。

加藤:甜菜は安価な輸入原料に押され、手間もかかることから、作付面積や生産量が年々減少傾向にあります。しかし、輪作体系の維持の上でも無くてはならない、重要な作物なのです。

坂下:ビートチップスは倉本聰さんの発案とお聞きしました。

加藤:5年ほど前に「甜菜をお菓子にできないか」と相談されたんです。倉本聰さんは休耕地が増える現状と北海道農業の行く末を危惧されており、そのお話を受けてすぐに商品化への挑戦を始めました。そして出来上がったのがこのビートチップスなのです。

多くの協力を得て、まず一歩前へ進む

坂下:甜菜をお菓子にするのに、苦労された点はありましたか?

加藤:永年、砂糖原料としてのみ生産されていた作物ですから、お菓子用に入手することが何よりも大変でした。
 関連業界の方々も初めてのことでしたが、粘り強く交渉を重ねていき、北海道の行政機関や研究機関等がご尽力くださり、種を提供してくれたりもしました。
 そして、生産では農家さんが、試作研究では江別の食品加工研究センターさんがご協力くださり、多くの方々のお力添えがあってこそ、弊社はまず一歩進むことができたのです。
 北海道農業への思いは、皆さん一緒なんだと感じました。

甜菜を新しい食材に、さらに広がる可能性

坂下:初めてビートチップスをいただきました。砂糖の原料ということでかなり甘い味を想像していましたが、とても軽くスッキリとした自然の甘味を感じます。

加藤:味付けは一切していません。甜菜をそのまま味わっていただきたくて。

坂下:そうなんですね。思わず原材料表示を見てしまいました。一緒にフルーツを添えたり他の栄養素を補えば、朝食向けのシリアルにもできるのではないかと思います。

加藤:甜菜には、北海道のどのような食の可能性を感じますか?

坂下:甜菜をもし手に入れることができれば、新顔野菜と同じようにいろいろな料理に試したいと思います。そんな中でイメージしたのは魚介類。特にホタテの風味に調和すると感じました。自然の甘味を生かした軽い和菓子にもなりそうですね。また、ビートチップス以外にも甜菜を使ったさまざまな商品が出れば認知度やニーズも高まり、新しい食材としての可能性がさらに広がるのではないでしょうか。  加藤:そうですね。私たちは砂糖としての耕作面積を増やす努力もしており、このビートチップスを期に少しでも生産拡大のお役立てになればと思います。

  • EDIT:北海道新聞社広告局/nu
  • TEXT:高崎 克秋
  • PHOTO:川村 勲
  • 記事公開日:2013年12月19日 朝刊 掲載

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