切り紙を通じて、伝える、育む。

きりがみ水族館

井上 由季子

(いのうえ ゆきこ)さん
モーネ工房主宰
京都市立芸術大学デザイン科卒業。企業での文具雑貨の企画を経て2000年独立。
07年より二条城近くの現在の場所に工房を移し、「工房」・「寺子屋」・「ギャラリー」の三つを軸にしたもの作りを発信をしている。
http://www.maane-moon.com/

大人も、子どもも、5歳になってワクワク!

自由なアートがいっぱい親子で楽しむ切り紙教室

紙教室イメージ01

今回行われた切り紙教室は、京都でもの作り学校や工房を主宰する井上由季子さんを 講師に迎えてのワークショップ。午前と午後の2回にわたり、 計134組、268人の親子が参加しました。井上さんの「切り紙」は、 身近にある新聞やチラシを使って自由に描きたいカタチを切り貼りして作る、 誰にでもできる簡単アートです。
「ここには、先生は誰もいません。今日は、皆さん5歳に戻ってください。 ワクワクして遊んでください」井上さんが決めたルールは親が「ダメ」と言わないこと。 カタチがおかしくても、タコの足が8本ではなくても、親は子どもの作品に口を出さない。 この日は、参加した人全員が5歳の友達なのです。
今回は、子どものテーマが「きりがみ水族園」。各々が持ち寄った空き箱に、 青い色紙を敷いた〝昼の海〟と、黒い色紙を敷いた〝深海または夜の海〟に、 好きな魚たちを描いて水族園を作ります。大人のテーマは「切り紙絵手紙」。 思うままの富士山を描いて、世界でたった1枚の絵手紙を作ります。 井上さんの「始め!」の合図で、切り紙チャレンジがスタート。 子どもも、大人も、思い思いの作品作りを始めました。

切って、貼って、親子が仲間になる

時間がたつにつれ、それぞれの水族園や絵手紙の世界が見えてきました。 大胆に切り貼りする人、丁寧に細かなカタチを描く人、 カラフルに描く人…教室全体にさまざまなアートが作り出されます。
「切り紙作品を並べてみると、どれも差がなく、年齢差も分かりません。 これまで各地でワークショップを行ってきましたが、下は4歳から上は99歳まで、 世代を超えてさまざまな作品が生まれてきました」

紙教室イメージ02

井上さんのところに、できあがった作品を見せに子どもたちがやって来ます。 大人たちの富士山絵手紙が次々と壁に貼られます。みんな5歳になってワクワクする。 参加した親子全員が、思う存分切り紙アートを楽しみました。
「切り紙の素材は日常にあるもの。お家に帰っても、新聞紙やチラシ、 ダンボールを生かして、子どもたちの豊かな発想を育んでください。 そして、切り紙を人とのコミュニケーションに役立ててください。 例えば、絵手紙を作って短い一言を添えたり。切り紙を通して、 人との温かい交流が生まれると思います

きりがみ魚イメージ01

井上由季子さんにお話を伺いました。

切り紙を通じてつながる心と心、親と子の絆

紙教室イメージ03

井上さんの切り紙は、当初はもの作り学校の課題でしたが、まず義母が始め、 そして実家で暮らす父も切り紙を始めるようになりました。
「父は無趣味な人。倒れた母を介護する生活を心配する思いもあり、 脳トレのつもりで切り紙を勧めました。 初めは嫌がっていた父も、やがて面白がるようになり、 すごいスピードで切り紙ノートが増えていきました」 父が他界するまでの4年間に、残したノートは170冊。図鑑を基に描いた魚たちや、 富士山ばかりを描いた千枚のハガキは、各地の展覧会で話題を呼びました。
「それまで父とは会話が合わなかったけど、 切り紙を始めてからは同級生のように接することができました。 切り紙で父と交信する時間がなかったら、父を知らないままで後悔が残ったと思います」
亡くなる2日前まで、切り紙のことで言葉を交わし合っていた井上さん父子。 父とつながることができたことが、井上さんの力になりました。

切り紙でつながり、分かち合う

井上さんに、もの作りへの思いを聞きました。
「大切なのは、ものの見方。何を見つめ、何が好きかという思いがあって、 初めてデザインが生まれます」
井上さんが重視する発想は、「マイナスの裏返しはプラス」だということ。 「できないからやらないのではなく、できなくても工夫することが個性になります。 切り紙は、それぞれの思いがカタチになるアート。 高級な和紙だと緊張するけど、新聞紙やチラシなら楽しく手が動きます」
では、井上さんが考える「未来計画」についてお聞きしました。 「子どもたちの造形は、幸せをもたらし、未来を感じさせてくれます。 そして、高齢者の方々にも同様の幸せを感じます。皆さんと、 いつまでも紙遊びできる時間を持っていたいですね」
井上さんのもの作りの視点には、常に人への優しい思いがあふれています。
「切り紙は、さまざまな人と共鳴することことができるものづくり。 皆さんも楽しみながら、いろいろな人と思いを分かち合ってください」

きりがみ魚イメージ02
午前の部午後の部河野一巳さん・明枝さん・みのりちゃん(札幌市)大久保さおりさん・一心くん・涼加ちゃん(札幌市)鈴木善子さん(札幌市)・田中謡子ちゃん(小樽市)天本鈴ちゃん(札幌市)イメージ
「老いのくらしを変えるたのしい切り紙」   著:井上 由季子 発行:筑摩書房
  • 主催:北海道新聞社広告局
  • 協賛:王子製紙株式会社/大王製紙株式会社/日本製紙株式会社
  • 協力:モーネ工房/エコチル編集部
  • EDIT:北海道新聞社広告局/nu
  • TEXT:高崎 克秋
  • PHOTO:川村 勲
  • 記事公開日:2013年2月25日 朝刊 掲載

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