僕がスポーツライターの仕事をしていたころ、 11~12歳の子どもたちが小さな命を奪う悲しい事件があり、 とても心を痛めました。事件を起こした子どもたちも苦しかったのでは? 周りの大人たちがもしその子たちのSOSに気付いていたら、 彼らは事件を起こさなかったかもしれない。 そのとき、大人の役目はとても大事だなと思いました。
僕は、両親や先生、近所の人々など周りの大人に恵まれ、 こういうカラダで生まれてきても幸せな人生を歩むことができた。 じゃあ、次は僕の番ではないだろうか。 上の世代から受けてきた恩を、恩返しじゃなく、 下の世代の子どもたちのために「恩送り」する番ではないだろうか。 そういう思いから、教師になろうと決意しました。
まず、みんなに考えてほしいのは、なぜ強くなりたいか、
なぜプラス思考になりたいのか、本当になった方がいいのかということ。
ちなみに、僕はマイナス思考の人の方が一緒にいて居心地がいい。
世の中には、プラス思考の方が好きという人が多いと思うけど、
僕みたいにマイナス思考の方が好きという人もいる。
もし、自分がマイナス思考で性格が弱かったとしても、無理せず、
いまの自分のままでいるという選択だってあると思います。
もし「どうしたら強くなれるの?」というなら、
つらいことや失敗をたくさん経験することが大事。
みんなの先生たちも、きっと恥ずかしいことや失敗をたくさん経験しているはず。
そういう経験を積んでいると、
また同じようなことが起こっても「大丈夫、これくらいのこと」と、
前向きになれるのだと思います。
みんな、6年間いろんなことがあったと思うけど、 これから成長して大人になっていくと、もっともっと、いろんなことが待っています。 出会いがあり、楽しいことがあり、つらいことだってある。ただ勉強するだけじゃなく、 たくさんのことにチャレンジして、いろんな経験を積んで、 大人になる準備をしてほしいと思います。
僕は、両親や先生、近所の人々など周りの大人に恵まれ、 こういうカラダで生まれてきても幸せな人生を歩むことができた。 じゃあ、次は僕の番ではないだろうか。 上の世代から受けてきた恩を、恩返しじゃなく、 下の世代の子どもたちのために「恩送り」する番ではないだろうか。 そういう思いから、教師になろうと決意しました。
乙武さんの小学校教師の実体験をもとにした自伝的小説『だいじょうぶ3組』が、 今春、映画化されました。 小学校教師・白石優作を演じる主演の国分太一さんと共に 同僚の赤尾慎之介役で出演する乙武さんに、本作へ込めた メッセージと、子どもたちの未来への思いを伺いました。
『だいじょうぶ3組』で伝えたかったことは、
15年前に書いた『五体不満足』から一貫して訴え続けている「みんな違って、みんないい」という思い。
これまでさまざまな活動をしてきましたが、子どもたちに伝えたいのは、
このメッセージに尽きます。自分の作品の映像化は初めてでしたが、
子どもたちの変化・成長がリアルに捉えられ、
思いがしっかり伝わる作品となったことに感謝の気持ちでいっぱいです。
子どもたちの未来のためになすべきことは、大人が楽しく生きること。
しんどい大人の姿を見せるのではなく、生き生き仕事して、笑顔で人と接する。
キラキラ輝いている姿を見せることで、「大人になるっていいな。
社会に出るのが楽しみだな」と感じてもらえたら。
この春、東京都の教育委員に就任しました。
これまで教師という立場で子どもたちと向き合ってきましたが、
今度は教育委員という立場で子どもたちに何ができるか、
しっかり考えて活動していきたいと思います。
僕が未来に対して望むことは、マイノリティーに対して開かれた社会、
一人一人の個性が認められる社会です。他力本願ではなく、
そこに自分自身が積極的に関わっていきたいですね。一人一人の個性を尊重し、
そして自分自身を好きになる。『だいじょうぶ3組』は、
そのためのヒントが詰まった作品だと思います。
乙武 洋匡さん
1976年東京都生まれ。早稲田大学在学中に出版した『五体不満足』が多くの人々の共感を呼ぶ。 卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、東京都新宿区教育委員会非常勤職員、 杉並区立杉並第四小学校教諭を歴任。現在は、子どもたちへのメッセージ、 教育現場で得た経験を発信していく活動を柱としている。 最新刊に「自分を愛する力」(講談社現代新書)。