海上保安官時代、第30次・第38次南極地域観測隊に食糧・調理担当隊員として参加しました。南極という特殊な環境の中でも、第38次で暮らしたドーム基地は標高3800m、年平均気温マイナス57℃、最低気温はマイナス80℃にも及ぶ過酷な場所。そこで働く9人の隊員の栄養と食べる楽しみを満たすために、さまざまな工夫を凝らしてきました。日本から持参する1年分の食糧は保存がきく冷凍食品や乾物、缶詰がほとんどですが、新鮮な野菜の彩りがないのは寂しいもの。そこで種と肥料を持参し、モヤシやカイワレを基地内で水耕栽培していました。また、気圧が低く低温ゆえにウイルスも存在しない気候特性を利用して、食糧を真空パックにする方法なども考案。特殊な環境だからこそ食を楽しむためのアイデアが生まれました。その一方で、人間が生きることが地球環境に負荷をかけている事実を思い知らされることも。第30次隊の時、断りなく昭和基地の浜辺でゴミを燃やしたため、煙に含まれる不純物が上空で凍ってしまったんです。そのため、その日の大気観測作業は中止に。人間の営みと地球環境との共存について考えさせられる機会も少なくありませんでした。
私は現在、札幌で生活していますが、札幌はかつての江戸とほぼ同じ人口規模なんですね。実は江戸は理想的なエコ社会でした。人の排せつ物を肥料にして畑にまき、生活排水で作物を育て、それで衣食住を賄い、再び畑に還元するというリサイクルシステムが確立していたのです。今は水洗トイレだし、生活排水も再利用せず流してしまうし、食糧はもちろん飲用水までお金を出して買うのが当たり前になっている。北海道は食糧自給率200%以上、豊かな森林と降雪もあって水にも恵まれています。チリ産の鮭やフランス産のミネラルウオーターを買う方もいると思いますが、北海道の食材を食べるだけで遠方からの輸送に使うエネルギーやCO2の排出量を減らせるし、何よりも新鮮でおいしいんです。生産者・流通・消費者が一体となって地産地消の意識を育み、北海道ブランドの食の価値を高めていけたらいいですね。また、最近のスーパーはパック売りが当たり前ですが、1個単位で買える市場方式をぜひ復活させてほしい。その日食べる分だけ買えば余らせてゴミにすることもないし、冷蔵庫に保管する必要もない。手が届く地域で作られたものを、必要な分だけ調理して食べる。そんな”身の丈に合ったごはん“でおいしくエコを実践してほしいと思います。