ここ数年「生物多様性」という言葉が広く知られるようになってきましたが、
皆さんはその意味をどのように捉えているでしょうか。
「生物多様性」には、「いろいろな生き物がいること=種の多様性」
「さまざまな生物が関わり合っていること=生態系の多様性」「同じ種でも生息環境によって異なる特徴を
持つこと=遺伝子の多様性」という三つの側面があります。特に遺伝子の多様性は興味深いものがあります。
たとえば私が生まれ育った上川管内の山中でよく見たカワガラスという鳥は、川底の幼虫を食べていました。
ところが知床で見たカワガラスが食べているのはカラフトマスが産卵したイクラでした。
また、私が長年調査・保護を行っている天売島のウミガラス(オロロン鳥)も、
500km離れたサハリンの同種と比べると顔や足など特徴が異なっています。
これらはまさに遺伝子の多様性の証といえるでしょう。
現在、ウミガラスは日本の絶滅危惧種に指定されています。
この国で一つの種が絶滅する=生物多様性の一部が失われるということは、一見小さなことのように見えるかもしれません。しかしその背後には大きな問題が潜んでいます。ウミガラスが生息する海にはエサとなる魚がいて生態系が成り立っている。その海の恩恵をいただく漁業があり、流通させる産業があり、私たちの食卓があり、人間の暮らしが成り立っている。ウミガラスの絶滅危機はその生息域である海の異変を知らせる警鐘であり、生態系や人間の暮らしにもひずみを生じさせる危険をはらんでいるのです。ウミガラスだけではありません。2004年冬に知床で撮影を行った際、氷上のアザラシの写真がたくさん撮れたものですが、翌年の同時期には知床半島周辺にほとんど氷がなく、アザラシもいなかったのです。
そこでたった一度だけアザラシの親子に出会い、撮影したのがこの紙面に使われている写真です。生物多様性の危機を写し取った1枚といえるかもしれませんね。
北海道は豊かな自然が身近にあり、さまざまな生物が生息し、生物多様性を肌で感じられるすばらしい場所です。でも地元で暮らしているとそれが当たり前だと思い込み、危機意識が薄くなりがちです。私たちの暮らしは地域の環境や生態系とつながり、ひいては地球そのものとつながっています。だからこそ、まずは身近な生命に愛情を持ってほしい。その愛情が増えていけば、地球全体を慈しむ愛情となります。そのための第一歩は「知ること」です。人間同士もお互いを知ることで愛情を育んでいきますね。自然も生物も同じこと。いま身近な自然で何が起きているのか、まずは事実を知ってください。すると人間の消費がどれほど自然に負担を掛けているのか分かります。そうすれば、自然になるべく負担を掛けない消費の仕方を選ぶことができる。そんな小さな積み重ねが、地球の未来を守る力になると思います。
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