エゾシカはその名の通り、世界でも北海道にしか生息していない野生生物。明治初期の乱獲や大雪などの影響により、一時は絶滅寸前まで激減しました。しかしその後の保護政策により、ここ30年ほどでエゾシカが急増。現在は道内全体で推定60万頭以上が生息しているといわれています。
写真は「エゾシカは森の幸」(北海道新聞社刊)より
エゾシカが急増した理由は、天敵であるエゾオオカミが絶滅したこと、原生林が農地に変わって新しいえさ場となったこと、ハンターの数が減っていることなど、いくつかあります。こうした状況の中、エゾシカが樹皮や希少動物を食べてしまって森が荒らされ、北海道の森の生態系バランスが崩れるなど自然環境への影響が出始めています。また、畑の作物や植林の木の芽や樹皮を食い荒らすため農林業の被害が拡大したり、自動車や列車とエゾシカの衝突事故が増えるなど、私たち人間の暮らしへの影響も少なくありません。
(社)エゾシカ協会が設立されたのは1999年(2000年社団法人認可)。その前年にエゾシカ対策の調査でヨーロッパに赴いた際、大いに参考になったのがスコットランドの野生シカ対策です。
スコットランドでは個体数モニタリングからハンティング・マニュアルに添った適正な狩猟、精肉や皮革の流通までトータルに管理することで、野生シカの個体数調整を図っています。こうしたスコットランドの管理スキルをお手本に、適正な捕獲による個体数調整と自然資源としての有効活用による「森とエゾシカと人の共生」を目指しています。
「クセがある」「固い」と思われがちなエゾシカ肉ですが、適切な狩猟法と食肉処理を施されたエゾシカ肉は、むしろクセがなくあっさりとした味わいが魅力。部位や調理法によって柔らかい食感も楽しめます。このおいしさ、ぜひとも食べて実感していただきたいですね。さらに地場産の食肉として流通が進めば環境負荷の低減にもつながるし、“北海道が生んだ天然のお肉”として観光資源にもなり得る可能性を秘めています。食肉としてのエゾシカの価値を多くの方に知っていただき、おいしく味わっていただくことで、北海道の森とエゾシカと人の共生関係を未来へつないでいければ、と願っています。