いよいよ募集が始まった「北海道エコ大賞」。
審査に先立ち審査委員長の辻井達一さんに、同じく審査員でフリーキャスターの菅井貴子さんが北海道と環境、エコ大賞への思いなどについて伺いました。
菅井辻井先生は東京ご出身ですが、北海道に来られたきっかけは何ですか?
辻井戦後まもなく北大農学部に入学したんです。大学で教授に勧められて湿原研究の道に入り、もう半世紀になります。
菅井私も横浜出身ですが、初めて北海道に来て釧路湿原を見た感動は忘れられません。その雄大な風景にあこがれて移住を決めました。
辻井古代日本は北海道のみならずどこもかしこも湿原だったんですよ。日本の古称「あきつしま(秋津嶋)」は「蜻蛉嶋」と表記されることもありますが、これは蜻蛉=赤とんぼが湿原に卵を産む様子を指しているんです。本州の湿原は水田となりましたが、北海道には現在も日本の湿原の80%が残っています。しかもそれらが地域ごとに異なる多様性を有している。これは世界でもまれであり、欧米の研究者は「北海道は湿原博物館だ」と驚いています。
菅井北海道の湿原は素晴らしいですね。普段はなかなかその価値に気付かないのですが。
辻井住民ではなく研究者という立場だから気付くこともあるし、逆に住民の視点から教えられることも多々あります。昔、サロベツ原野の調査で地元の農家に長期間泊まり込んでいて、厳しい条件下で農業を営む人々の苦労を目の当たりにしました。湿原の保全は大切だけど、そこで生きる人がいることを忘れてはならない。人間あっての環境共生なのだと教えられた思いです。
菅井その土地に生きる人の視点から学ぶことは多いですね。気象の世界でも地域ごとにお天気のことわざがあって、その正確さは天気予報をしのぐほど (笑)。
辻井漁村では古老が天気を見て出漁を決めることもある。その土地に息づく知恵は、環境と上手に付き合う知恵でもありますね。
菅井私たちが環境と上手に付き合っていくために、今後どういう取り組みが必要なのでしょうか?
辻井地球温暖化は農水産業から流通、ビジネス、ライフスタイルまでさまざまな影響を及ぼします。それぞれ別々の問題ではなく、すべてつながっているのです。
国内外の多数の環境関連団体や研究機関が個別に活動するだけでなく、情報を共有して有機的に結びつき、総合的に環境にアプローチすることが大切です。
最近は温暖化の影響で北海道でもサツマイモなど南方の農産物がとれ始めていますが、それを珍しがっているだけでなく、多方面からのアプローチによって新たな道産食材として育てていく。これからはそんな発想の転換も必要ではないでしょうか。
菅井環境の変化を新たなビジネスチャンスととらえれば、地域活性化の可能性も広がりますね。
辻井今回のエコ大賞でも、今までのエコ活動にはない新しい発想に期待したいですね。例えばいま多くの企業が植林活動に取り組んでいますが、各家庭が1本ずつ庭木を植えることも立派な植林活動になる。
菅井わざわざ植林地へ出掛けなくていいから、CO2削減にもつながりますね。
辻井北海道の気候風土に着目するのも面白いですね。十勝の冬は晴れの日が多いから、太陽光を利用してストーブを使わないアイデアとか。”環境問題“と大上段に構える必要はありません。小さな工夫でちょっと幸せになれるような、いい意味で”B級グルメ“的な親しみやすいアイデアで、楽しく続けられるエコアクションを提案してほしいですね。
菅井北海道らしさを生かした、手の届くエコアクション。審査が楽しみですね。本日はありがとうございました。
辻井 達一(つじい たついち)さん = 左
東京生まれ。植物生態学者。北大農学部教授、同付属植物園長などを経て1997年から「北海道環境財団理事長。北海道新聞エコ大賞・審査委員長。湿原研究の第一人者であり、日本国際湿地保全連合会長、環境省ラムサール条約湿地検討会座長 なども務めている。
菅井 貴子(すがい たかこ)さん = 右
横浜市出身。全国各放送局で、天気予報や環境番組のキャスターを勤める。2005年から北海道に移住。気象予報士・防災士・CFPなどの資格も有する。小中学校への環境出前授業や講演、コラム執筆なども行うほか09年11月には「なるほど!北海道のお天気」(北海道新聞社)を出版。